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初手からの指し手
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀
▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △4二銀 ▲5八金右 △3二金
▲7八金 △4一玉 ▲6九玉 △5二金 ▲7七銀 △3三銀
▲7九角 △3一角 ▲3六歩 △4四歩 ▲6七金右 △7四歩
▲3七銀 △6四角 ▲4六角(基本図)
△4三金右 ▲2六歩 △7三銀 ▲2五歩 △8五歩 ▲7九玉
△3一玉 ▲8八玉 △2二玉 ▲1六歩 △9四歩 ▲9六歩a
△1四歩 ▲6四角 △同銀 ▲2六銀(テーマ図=第1図)
a・・・ ▲1五歩の変化を第31図より - 角がにらみ合ったまま駒組みが進む、先後同形の脇システム。局面が煮詰まったところで、先手から角を交換し先攻します。先手が挑めば比較的テーマ図まで進みやすい形なので、事前の研究が活きる戦法です。ただし、後手に正確に対応されると、上手くいかないというのが現状です。定跡は最終盤まで整備されており、激しい攻防戦が繰り広げられます。
- 先手から角交換をするため手損になりますが、▲1五歩からの端攻めに期待できます。「矢倉囲いに端歩は突くな」という格言もある通り、後手はこの攻めを受けきるのは大変です。その攻防を第1図より記していきます。また、端の位を取り合う脇システムを第31図より紹介します。
△6九角の攻防手
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第1図以下の指し手
△6九角 ▲1五歩a
(第1図)
a ・・・▲4八飛を第25図より - 第1図の▲2六銀は次に▲1五歩からの端攻めを見せた仕掛け。矢倉囲いに対しては有効な攻め筋です。対して後手は、何か対策をとらないと攻め潰されてしまいます。そこで、攻防に△6九角と打つのが定跡の一手。この手が優秀で、脇システムにとって立ちはだかる最大の壁です。
- △6九角に対して、定跡は攻めを敢行する(1)▲1五歩と、角を捕獲しにいく(2)▲4八飛の2通りあります。同じようでも(3)▲5七金と捕獲しにいくのは疑問で、以下△7五歩▲6八金△7六歩▲同銀△7五歩▲6九金△7六歩▲7八金△7五銀(=参考図)と進み、攻め駒が玉頭に殺到され先手不利です。途中、銀取りの△7五歩に▲8五銀とするのも、以下△8七角成▲同玉△8五飛で先手敗勢となります。本譜では、まず(1)▲1五歩の定跡を調べていきます。(2)▲4八飛の変化は第25図より。
後手からは先行できません
- 相矢倉における基本的なことですが、第1図よりいきなり△7五歩(=A図)から後手が先行しようと試みても、以下▲7五同歩△同銀▲7六歩△8六歩▲7五歩(=B図)と銀の方を取られて、後手敗勢となります。王様が8八にいるときは8七の地点に2枚駒が利いている形なので、△8六歩を手抜くことができるためです。ただし、B図の局面で、もし6九に角があったなら、この仕掛けは成立していることを把握しておきましょう。
▲1五歩から開戦
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第2図以下の指し手
△1五同歩 ▲同銀a
△同香 ▲同香
△4七角成 (第3図)
a ・・・▲同香を第14図より - 第2図より△1五同歩に(1)▲同銀と銀から取るのが端攻めをする際のセオリーですが、この局面では例外的に(2)▲1五同香と香車から取る手も有力です。こちらの変化は第14図より記していきます。
- ▲1五同銀に△1三歩は、以下▲6五歩△7三銀に▲5七金(=参考図)と今度は角を捕獲しにいく手が成立します。従って、本手順△4七角成と馬を作ります。この馬でどれだけ先手の飛車を押さえ込めるかが今後の展開のカギです。
- 先手が1歩持つと▲6五歩と突いて銀を一つ後退させることができます。これが大きいです(▲6五歩を△同銀と取るのは▲6六歩で銀が死にます)。そうしてから角を捕獲しにいくという流れ。第2図△1五同歩に▲同香と走れるのも、これが影響しています。
端攻めの工夫
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第3図以下の指し手
▲1三歩 △同桂
▲4一角 (第4図)
- ▲1三歩は手筋。単に▲1九香だと△1三歩▲同香△同桂▲1四歩△1ニ歩で難しいです。▲1三歩に△1一歩と受けてくれるなら、そこで▲1九香(=参考図)と足して端を攻略します。今度は1ニの地点が争点になるので、2一の桂が受けに利いてきません。端攻め成功で先手優勢です。
- 従って、▲1三歩に△同桂は仕方ないですが、そこで▲4一角が攻めの継続手。先手攻めきれるか、後手受けきれるか、そういった戦いです。
角の処置
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第4図以下の指し手
△6ニ飛a ▲3ニ角成
△同飛 ▲1九香
△1ニ歩 ▲1三香成
△同歩 (第5図)
a ・・・△1四歩を第9図より
- 第4図より、角成を受ける(1)△6ニ飛と、一度端の守りを補強する(2)△1四歩の2つの定跡があります。他に、角成りを受けるなら(3)△5三金も考えられますが、金が王様から離れてしまう分、△6ニ飛の定跡よりも劣ります。いずれにしても、4一の角を取りにいくのが後手の方針です。
- 本譜△6ニ飛以下、▲3ニ角成△同飛に▲1九香と力をためて攻めを繋いでいきます。最後の▲1九香では、勢い▲1三香成と行きたいところですが、以下△同玉▲1九香△1四歩(=参考図)で、際どく残っています。もし先手に1歩あれば▲1三香成△同玉に▲1四歩と叩く手が厳しいのですが、残念ながら歩がありません(△1四同玉は▲1九香からの詰みがある)。
歩頭の桂で攻めを繋ぐ
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第5図以下の指し手
▲2四桂 △同歩
▲同歩 △同銀
▲同飛 △2三銀a
▲2八飛b (第6図)
a ・・・△2三歩では駄目
b ・・・▲1一銀は無理 - 第5図は先手の攻めが一息ついてしまったように見えますが、▲2四桂と歩頭に桂を打つのが矢倉崩し定番の攻め筋。飛車を逃げるのは、▲3ニ金△同飛▲1三香成△3一玉▲3ニ桂成と迫力のある攻めが続きます。従って、▲2四桂に△同歩は仕方のないところ。以下綺麗に清算して、第6図に進みます。
- 途中、▲2四同飛に△2三銀は絶対の受けで、ここけちって△2三歩、もしくは△2三香では▲1三香成(=参考図)がピッタリで先手必勝形になります。本譜△2三銀に対して、▲2八飛と引きますが、▲1一銀も考えてみたいところ。しかし、▲1一銀は以下、△3三玉▲2三飛成△同玉▲2ニ金△同飛▲2四歩に△3三玉が粘りの一手で攻めきれません。
△4六馬で粘る
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第6図以下の指し手
△4六馬a (第7図)
a ・・・△2四歩は後述 - 第6図より自然な受けは△2四歩ですが、そこで▲1一銀と追撃する手があります。玉を下段に落として▲1三香成を狙います(後述)。これは厳しいので▲1一銀に△1ニ玉と頑張りますが、以下▲2五歩△同歩▲1七桂(=参考図)と桂の活用を図って先手の調子良い攻めが続きます。
- 本手順は△4六馬として、飛取りに当てつつ受けにも利かせます。同じようでも△4六角と打つのは▲3七金でいけません。
▲1一銀に△同玉▲1三香成の変化
- A図より△2ニ銀に▲2四飛で決まっていそうですが、△2一香と頑張られると、これが意外と手ごわいです。以下、▲1ニ歩△同銀▲1四歩△3三銀▲2三金(=B図)と必死に張り付いて、ギリギリ後手玉を寄せきれています。
入玉できるかの争いへ
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第7図以下の指し手
▲2一金a △3三玉
▲2ニ銀 △同飛
▲同金 △2八馬
▲1三香成 △2四玉
(第8図)
a ・・・▲1一銀も有力 - 飛車を逃げているようでは話になりませんから、▲2一金から攻め続けます。ここでは▲1一銀も有力で、以下(1)△1ニ玉は▲2ニ金△同飛▲同銀成△同玉▲2一飛で寄り。(2)△3三玉は▲3七金△2四馬に▲2五歩(=参考図)で馬を捕獲できます。先に▲3七金と打つのは手順前後で、以下△2四馬▲1一銀は△同玉と取られて大失敗。▲3七金△2四馬▲2五歩とするのも、以下△4ニ馬▲2四銀△1ニ銀と交わされて、先手の手が続きません。
- 本手順は▲2一金から▲2ニ銀と迫ります。△2八馬とされて飛車は取られますが、以下▲1三香成と香車が働いて強力です。後手は△2四玉から入玉を目指し、対して先手はそれを阻止できるかどうかの争いに移ります。
捕まえきれない(後手勝ち)
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第8図以下の指し手
▲2六飛 △2五香
▲2三金 △1五玉
▲2八飛 △同香成
▲1七銀 △1六歩a
▲2八銀 △4九角
(結果図)
a ・・・△4九角は▲3七桂 - ▲2六飛の王手馬取りは△2五香で耐えます。以下、▲2三金△1五玉▲2八飛△同香成▲1七銀△1六歩▲2八銀△4九角と打って結果図。途中△1六歩のところ、すぐに△4九角と打つのは悪手で▲3七桂がピッタリ。以下、△2七飛と受けるしかありませんが、▲2四角△同飛成▲同金で完全に受けナシに追い込まれます。従って、成香を取られるのは痛いですが、△1六歩と銀を下段に落としてから△4九角と打つのが正着です。
- 結果図の局面、(1)▲3七桂は△2六玉、(2)▲1九香は△3八角成、(3)▲3七銀は△1七歩成、(4)▲2七歩は△2六歩で、いずれも入玉阻止する手段は見当たりません。対して、先手玉が入玉するのは絶望的ですから、後手の勝ちとなります。
変化:△6ニ飛のところで△1四歩
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第9図以下の指し手
▲同香 △1ニ歩
▲6三角成 △5三金
▲4一馬 (第10図)
- 第9図は前述の△6ニ飛に変えて、△1四歩▲同香△1ニ歩として端を受けた局面です。単に△1ニ歩と受けるのは、▲6三角成のあと▲1四歩の叩きが残り後手不利。角成は許しますが、そこから全力で馬を捕獲しにいきます。
- 本譜、▲6三角成と馬ができましたが、△5三金からこれを捕獲しにいきます。△5三金では△7三銀という手もあるのですが(次に△5ニ銀で馬を殺す)、以下▲1三香成△同歩▲6五桂(=参考図)で上手くいきません。先手先手で、馬を追う必要があります。
先手の馬を捕獲する
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第10図以下の指し手
△8六歩a ▲同銀
△5ニ銀 ▲5一馬
△4ニ銀 ▲同馬
△同金 (第11図)
a ・・・大切な一手 - 第10図より△5ニ銀から馬を捕獲しにいきますが、その前に△8六歩と突き捨てを入れておくのが大切な一手。これをいれないで△5ニ銀とすると▲8四香の反撃が厳しいです。突き捨てが入っていれば、8筋に歩が利きますから、△8三歩でなんでもありません。
- この△8六歩の突き捨てを、銀で取るか歩で取るかは先手にとって悩ましいところ。ただし、▲8六同歩では、△8五歩~△7三桂の継ぎ歩攻めが残って先手不満です。本手順、後手は△5ニ銀から馬を捕獲するのに成功したものの、玉が孤立してしまった形。先手は必死に攻めの糸口を作っていきます。
▲3五歩でどれだけ迫れるか
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第11図以下の指し手
▲3五歩 △4六角
▲3七香 △2五桂
(第12図) - 駒の損得は角と香の交換になっており、先手の駒損。展開が長引くと駒損が響いてくるので攻め続けるしかありません。第11図より、▲1三香成△同歩▲1五桂も迫力ある攻めですが、以下△3三玉▲2三桂成△4三玉(=参考図)と金・銀のいる位置に逃げ出されて攻めきれません。本手順の▲3五歩は後手陣の急所を突く本筋の一手です。
- ▲3五歩に△4三銀と3筋を補強する手も考えられますが、以下▲3四歩△同銀に▲3五歩から▲3四桂の筋を狙われて後手不利。なので、△4三金寄で3筋を受ける方が勝りますが、やはり▲3五歩の取り込みから歩の連打が嫌味です。ちなみに、▲3五歩の取り込みに△3ニ歩と受けるのは、歩切れになるため▲8五香が厳しいです。本手順では、△4六角と攻防に打ち、飛車を押さえ込みにいきます。対して、▲3七香と3筋を狙いに攻防手で対抗。負けじと△2五桂で取られそうだった桂馬をさばきます。
ぎりぎりの戦い
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第12図以下の指し手
▲1ニ香成a △同玉
▲1四銀 △2四歩
(第13図)
a ・・・すぐ▲4八歩は疑問 - 第12図より(1)▲1ニ香成△同玉に▲1四銀と攻めます。桂取りかつ、△3七桂成も防いでいる好手です。▲1ニ香成のところ、(2)▲4八歩と馬をどかせて▲2六飛と角を詰ます順も魅力的ですが、以下△8六飛(=参考図)がするどい一手で先手敗勢。参考図から、▲8六同歩には△7九角成▲同金△8七銀▲7七玉△7九馬で、あっという間に先手玉受けなしに追い込まれてしまいます。従って、参考図では▲4六飛と角を取るよりありませんが、△7九銀から後手の猛攻を浴びてしまいます。
- ▲1四銀に△2四歩と一旦は桂取りを受けて第13図です。
細い攻めながら(多分先手勝ち)
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第13図以下の指し手
▲2六飛 △1三歩
▲4八歩 △3七馬
▲同桂 △同角成
▲2五飛 △同歩
▲3一角 △1四歩
▲3ニ角成 (結果図) - すぐ▲4八歩と打つのは後手の攻めを呼び込んでしまったので、先に▲2六飛と浮いて、それから▲4八歩を狙います。これなら△8六飛の強襲は心配いりません。▲2六飛に△3七桂成なら▲2四飛と走って勝負形です。
- 本手順は▲2六飛に△1三歩と催促にいくと、結果図まではほぼ一直線。その局面は難解ながら、先手寄せ切れそうな気がします。△2一香と受けられて先手の攻めは切れていそうですが、以下▲2四桂△1三玉に▲3ニ桂成が▲2四金以下の奇跡の詰めろになっています。
- 脇システムは攻めが切れるか切れないか、ぎりぎりの戦いになるため、手筋を勉強するには、うってつけの定跡です。この変化だけでも、矢倉定番の攻め筋や工夫をこらした手順がたくさん見受けられたと思います。
分岐:▲1五同銀のところで▲1五同香
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第14図以下の指し手
△1四歩a ▲同香
△同香 ▲1五歩
(第15図)
a ・・・△1三歩は第19図より - 第14図は▲1五同銀に変えて▲1五同香と走った局面。普通は△1三歩(=参考図:第19図)と受けられて攻めが続かないのですが、この局面に限っては6九の角を取りにいく方針に切り替えることで戦えます。こちらの変化は第19図より記していきます。
- 第14図より素直に△1五同香と取るのは先手の攻めを調子付かせてしまうだけなので、△1四歩と受けて先に香車を取りにいきます。先手が▲1五歩と香車を取り返しにいったところで第15図です。
馬を作って先手の攻めを牽制
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第15図以下の指し手
△4七角成a ▲1四歩
△1ニ歩 ▲2七香
(第16図)
a ・・・△7五歩を第21図より - 第15図は▲1五歩と香車を取り返しにいったところ。これを普通に△同香と取るのは銀を進出させて面白くないですから、手抜いて他の有効手を指します。定跡は馬で先手の攻めを抑えにいく(1)△4七角成と、反撃に転じる(2)△7五歩の2通りあります。△7五歩の変化は第21図より記していきます。
- 本手順、△4七角成に▲1四歩の取り込みも△1ニ歩と丁寧に面倒をみます。ここから先手は攻めを図りたいところですが、お互い香車を手持ちにしているため、例えば単純に▲1五銀△7三桂▲2四歩と攻めても、以下△2四同歩▲同銀△同銀▲同飛△2三香(=参考図)で飛車が死んでしまいます。これは後手にも同様のことが言えます。そこで、一回▲2七香と力をためて第16図。
- ▲2七香と力をためても、2筋で清算したとき△2三香からの飛車の捕獲が依然残っています。そのとき後手玉を寄せる継続手を用意しておかなければなりません。
後手の反撃
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第16図以下の指し手
△5五歩 ▲同歩
△7五歩 ▲同歩
△8六歩a ▲同歩
△7五銀 ▲1五銀
(第17図)
a ・・・▲同銀は△8三香
- 第16図より、△4六馬には、以下▲3七銀△4七馬▲6八金寄と進み、次の▲4八歩(=参考図)が先手の狙いで馬が助かりません。ここは反撃のタイミング。
- 本手順、△5五歩~△7五歩~△8六歩と嫌味をつけ、△7五銀と銀を進出させます。先手としては△7五歩を手抜いて▲1五銀と攻めあいに挑みたいところですが、以下△4六馬▲3七角△3六馬で、角をつかわされて先手不満。怖いですが、△7五銀と銀を引き付けてから▲1五銀と攻めあいます。
水面下での攻防戦
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第17図以下の指し手
△4六馬a ▲3七角
△3六馬 ▲2四歩
(第18図)
a ・・・攻めあいは無理 - 後手としては勢い△7六歩から先行したいところですが、以下▲同銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六銀▲8六歩△8七歩▲9八玉△6七銀不成に、ここで▲2四歩(=参考図)と待望の反撃で出て先手勝ち。途中の▲9八玉が好手で、先手玉は後手に相当駒を渡しても詰まない形です。
- ということで、本譜△4六馬と飛車取りに牽制し、▲3七角と持ち駒の角を使わせて先手の攻めを緩和します。以下△3六馬に▲2四歩と仕掛けて第18図。
- 参考図の局面から、先手はとにかく後手玉に詰めろをかけ続ければ勝ちですから、▲2四歩から清算したあとの局面図を並べてもらえれば、それほど難しくはないと思います。
▲5四歩で勝負形(難解)
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第18図以下の指し手
△2四同歩 ▲同香
△同銀 ▲2三歩
△同金 ▲2四銀
△同金 ▲同飛
△2三香 ▲5四歩
(結果図) - ▲2四同飛に△2三香で飛車が詰んでしまいますが▲5四歩が継続手。飛車取りと▲5三歩成と2つの狙いを含んでいます。結果図より、飛車の取り合いは玉形の堅さで先手勝るので、後手はひとまず飛車取りを受けなければいけません。△6四歩か、強く受けるなら△4六銀。それに対して、先手はいずれも▲5三歩成と踏み込んで、難解な終盤戦になります。
変化:△1四歩のところで△1三歩
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第19図以下の指し手
▲6五歩 △5三銀
▲7三角 △9ニ飛
(第20図) - 前述の第14図より△1四歩に変えて△1三歩とした局面が第19図。局面を治めて先手の攻めを封じる狙いですが、今度は6九に打った角を狙われてしまいます。
- 前述同様、先手は▲6五歩と突いて、銀を一つ後退させてから角を取りにいきます。▲6五歩△5三銀に、▲5七金とあわてて角を取りに行くのは疑問手で、以下△5五歩▲同歩△7三桂(=参考図)で先手不利。参考図以下、(1)▲6八金と取りにいくのは△6五桂が絶好。また、(2)▲6六銀も△7八角成▲同玉△6四歩と進み、後手の調子良い攻めが続きます。すなわち△5三銀と引いたのは△7三桂が狙い。そこで本譜は▲7三角と飛車取りにうって一時的に△7三桂を封じます。
- 先手の右の銀と香車が凝り形になっているため、攻めあいに持ち込めないのが痛いです。この駒の位置が逆なら参考図の局面でも十分戦えるのですが。
▲4八飛から角を取りにいく(形勢不明)
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第20図以下の指し手
▲4八飛△7八角成
▲同飛 △2七金
▲4八角 △7三桂
▲7五歩 (結果図) - ▲5七金から取りにいくのは、やはり後々△7三桂の筋が気になるのでやりにくいです。従って、▲4八飛から角を捕獲しにいきます。以下△7八角成と角を切って△2七金の切り返し。この手は角のラインをずらして△7三桂を実現させる意味。進んだ結果図の局面は難解でこれからの将棋です。▲7五歩からの桂頭攻めは調子良いですが、後手にも△1四歩から香車を取りにいく手も残っていますしバランスは取れています。
分岐:△7五歩からの反撃
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第21図以下の指し手
▲1四歩 (第22図)
- 第21図は△4七角成に変えて、△7五歩と攻めに転じた局面。これを素直に▲同歩と取ると、以下△同銀▲7六歩△8六歩▲7五歩△8七歩成(=参考図)で、後手の攻めが決ります。6九に角が設置してあるため、成立する仕掛けです。もちろん途中の▲7五歩と銀を取った手は悪手で、そこでは▲8六同歩と応じなければいけませんでしたが、それも△8六同銀から銀をさばいて後手優勢となります。
- 従って、第21図では、▲1四歩と香車を取る一手。後手の攻めが続くかが焦点です。
後手の攻勢
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第22図以下の指し手
△7六歩 ▲同銀
△7三香a (第23図)
a ・・・△7五歩には▲8五銀 - △7六歩▲同銀に本譜の(1)△7三香が最善手。普通は(2)△7五歩と叩いて銀を取りにいきたいところですが、それには▲8五銀が好手です。△8五飛と取るのは▲8六香で飛車が逮捕されてしまうため、△8三香と打ちますが、▲8六香がまた強い手です。以下、△8五香▲同香△同飛に▲8六香があります。なので、▲8六香には△5五歩としますが、▲7四銀(=参考図)と逃げて先手十分の形勢です。なお、△5五歩を▲同歩と取るのは疑問手で、以下△4七角成とされて8五の銀の処置に困ります。
- ということで、本譜△7三香と打って攻めます。7三の地点に打っているのは、▲4六角の王手飛車のラインを一時的に防いでいる意味があります。
王手飛車は覚悟の上
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第23図以下の指し手
▲1三歩成 △同玉
▲7四歩 △同香
▲7五歩 △同銀
▲同銀 △同香
▲4六角 △2ニ玉
▲8ニ角成 △7八香成
▲同飛 △同角成
▲同玉 (第24図) - ▲1三歩成△同玉の交換を入れてから▲7四歩~▲7五歩と強気の押収です。単に▲7五歩だと△2ニ玉(=参考図)とされて、逸機を逃してしまいます。本手順、▲7四歩から第24図まではほぼ一直線の進行。気持ちの良い王手飛車は決まるものの、先手陣は守り駒が削られて、気の抜けない終盤戦です。
- 駒割りは角・香と金の交換で、先手の大幅な駒得になります。ゆっくりした展開は駒得の活きる先手に分がある戦いができますから、後手は攻め続けなければいけません。
- 王手飛車が嫌だからといって▲1三歩成に△3一玉と逃げるのは、▲7七歩と受けられて先手優勢です。と金が大きく、▲2三と~▲8三香などの攻め筋が残ります。
見た感じは先手勝ち(難解)
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第24図以下の指し手
△7七歩 ▲同桂
△4八飛 ▲6八銀
△4九飛成 ▲7九歩
△2九龍 ▲1七香
△1三歩 (結果図) - 飛車を打つ前に△7七歩と味付け。▲同金は飛車の打ちこみが厳しくなるので、▲同桂の一手。さらに△7六歩と叩くのは▲4六馬と馬を引くのが絶好です。本手順は△4八飛から駒を使わせて、攻めながら先手の攻めを緩和します。
- 結果図の局面は難解ですが、手番を握っている先手に勝ちのある将棋だと思います。第一感▲1六香打ですが、△8五龍と粘られるとよくわかりません。▲4六馬と引くのは△4五歩で馬が目標になってしまいそう。もうひと工夫、端に嫌味をつけて寄せにいければ良いのですが。
変化:▲1五歩のところ▲4八飛
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第25図以下の指し手
△7五歩a ▲7九金
△7六歩 ▲同銀
△7五歩 (第26図)
a ・・・△7八角成も有力 - 第25図は攻めを自重して、▲4八飛と角成りを防いだ局面です。次に▲7九金から角を取りにいく狙い。ここで後手は△7八角成と取られそうな角をさばいてしまうのも有力ですが、以下▲同玉△7五歩▲同歩△同銀▲1五歩(=参考図)と進むと、後手も攻めきるのは大変です。△7六歩なら▲8八銀と引いて軽い形。端に嫌味をつけられると▲4六角や▲9七角などのいやな筋が残ります。
- 本譜は△7五歩を手抜いて▲7九金から角を取りにいきますが、△7六歩~△7五歩と後手の猛攻が始まります。先手の対応が難しいです。
- この▲4八飛の変化は後手の攻めを受けきるということはまず不可能なので、どこかで反撃に移らないといけません。受けに自信がないと指しこなすのは難しい定跡です。
後手が主導権を握る
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第26図以下の指し手
▲8五銀a △8七角成
▲同玉 △8五飛
▲8六歩 △8ニ飛
▲7七歩 (第27図)
a ・・・▲6九金を第29図より - (1)▲8五銀では、自然に(2)▲6九金と角を取る手も考えられます。こちらは第29図より記していきます。本譜、▲8五銀に△8七角成が最善の一手。素直に△8五同飛と銀を取ってしまうのは▲6九金(=参考図)で、歩切れになり後手が攻め続けることは困難です。
- 角成りとしたことで玉が上部に引っ張り出され、後手としては不満のない展開。7五の拠点も活きてきます。次に△7六銀と打ち込まれるのは厳しいので、▲7七歩と傷を消して第27図。
遊び駒の活用
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第27図以下の指し手
△7三桂 ▲2八飛
△8五歩 ▲同歩
△同桂 ▲8六歩
△7七桂成 ▲同金
△7六銀 ▲同金
△同歩 ▲6七桂
(第28図) - 先手の陣形はバラバラでかなり不安定な形。これをまとめるのは大変です。逆に後手は攻めが繋がるかどうか。第27図より△5五歩▲同歩△同銀▲5六歩△6六銀と一気に決めたいところですが、以下、△同金▲5七銀に▲5五角(=参考図)がピッタリの切り返しで、先手優勢になります。
- 本譜は△7三桂と桂馬の活用。対して先手は▲2八飛としてあらかじめ当たりを避けておきます。以下、△8五歩から桂損の攻めで突破口を切り開きます。ただし、駒損が拡大しているので、慎重に攻めないとすぐ切れてしまいます。▲7五銀は許せないので、△6七桂と防いで第28図です。
先手も頑張りがいのある将棋(難解)
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第28図以下の指し手
△5五歩 ▲同歩
△5六歩 ▲6八銀
△5七金 ▲3九角
(結果図) - 飛車先の突破は無理なので、今度は5筋から嫌味をつけていきます。△5六歩の垂らしには▲6八銀、△5七金の打ちこみにも▲3九角(=結果図)と丁寧に面倒を見ていきます。戦いが長引けば、駒得である先手にチャンスが回ってきますから、頑張りがいのある局面です。
- 結果図の局面から△6七金▲同銀△7五銀と攻めるのも▲8五金で、先手玉耐えられます。なので、さらに戦線拡大していく必要があり、一筋縄にはいきません。とはいえ、攻めている後手の勝ちやすい将棋であることは間違いないでしょう。
変化:▲8五銀に変えて▲6九金
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第29図以下の指し手
△7六歩 ▲7八金
△9五歩a ▲同歩
△7五銀 ▲4六角
(第30図)
a ・・・大切な突き捨て - 第29図は▲8五銀に変えて、▲6九金と角を取った局面。こちらの方が自然ですが、攻めの銀が進出してくるので、それに迎え撃つ対策が必要です。
- 本譜△7六歩▲7八金に、△9五歩と端の突き捨てを入れておくのは大切な一手。どこかで1歩補充できるようにすることと、△7五銀~△8六歩と攻める際にも有効です。参考図は一例ですが、△8六歩から戦いが起こったとき、▲8七歩に△7九銀(=参考図)の追撃があります。以下▲同玉に△8七飛成と龍を作られ、それが金取りになっているのが痛いです。この強襲を避けるため、▲4六角として飛車を牽制します。
角をいじめられる(先手不利)
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第30図以下の指し手
△6四歩 ▲6三角
△4五歩 ▲5七角
△5五歩 ▲6五歩
△8四銀打 ▲7四角成
△6五歩 (結果図)
- △6四歩には▲6三角と空いた空間に角を打ってさらに後手の攻めを牽制します。こうなるとさすがに後手も8筋からの攻略は難しいので、今度は△4五歩から4六の角を目標に攻めの糸口を作り出します。
- 結果図の局面は、歩が先手玉に向かって伸びてきておりかなり苦しい戦況。▲7五角で2枚換えは可能ですが、以下△同銀▲同馬に△5六歩~△4四角の王手銀取りを含みに狙われて、先手不利です。なので、結果図より▲6五馬くらいですが、△6六歩から攻めが続きます。いずれにしても、角を渡すと4四角のラインが厳しいので、見た目よりも受けが難しくなっています。
変化:▲1五歩と端の位を取る将棋
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第31図以下の指し手
△1五歩 ▲3五歩
(第32図) - 最後に、角交換をしないで端の位を取り合う将棋を紹介します。これまでの変化では手損する変わりに、▲1五歩からの端攻めに期待した仕掛けでした。しかし、この将棋ではそれができません。第31図より、角交換して、▲4六銀と出るのも定跡ではありますが、以下△7五歩(=参考図)と先攻されて先手不満。これでは純粋に手損しているだけです。
- 角交換が駄目なら、争点は3筋のみ。本譜▲3五歩の仕掛けが成立するかが焦点です。3筋の歩を切ることができれば▲3六銀と進出できますから、攻めも可能になります。ただし、この▲3五歩は飛車のコビンを攻められる非常に勇気のいる手です。
銀の繰り替え
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第32図以下の指し手
△3五同歩 ▲同角
△3六歩a ▲4六銀
△6ニ銀 (第33図)
a ・・・△8六歩を第34図より - △3五同歩▲同角に△3六歩と飛車のコビンを狙われるのが気になるところ。以下、▲4六銀に△4五歩で、銀が取られそうですが、▲6五歩(=参考図)で助かっています。参考図の局面は後手失敗ですが、途中△3六歩のところで△8六歩と味付けしてから、この筋を狙う順があります。その変化は第34図より記します。
- 本譜は△3六歩▲4六銀の交換を入れて角の行き場を制限させてから、△6ニ銀と銀の繰り替えを行います。中央に銀をもってきて、厚みを加える本筋の一手です。
後手が中央の位を確保(先手不満)
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第33図以下の指し手
▲5五歩 △同歩a
▲5八飛 △3七歩成
▲同銀 △5三銀
▲6八角 △5四銀
(結果図)
a ・・・△3四銀も有力 - 先手は▲5五歩の突き捨てを入れて、▲5八飛と中央の突破を試みます。しかし、その瞬間△3七歩成と成り捨てるのが好手。▲同銀と一つ後退させられ、結果図の局面は5筋の位を確保した後手の作戦勝ちとなります。またそれ以外にも、第33図より▲5五歩に、△3四銀▲1六角△4五歩と中央を圧迫していく順も有力です。
- 途中△3七歩成を強く▲同桂と取る手もないことはないですが、以下△3六歩▲2六角△3七歩成▲同角△1五桂と急所に桂馬を据えられて苦戦。▲5五銀と中央は制圧できるものの、桂損の代償は大きいです。
変化:△3六歩のところで△8六歩
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第34図以下の指し手
▲8六同銀 △3六歩
▲4六銀 △4五歩
▲6五歩 △8六角
▲同歩 △4六歩
(第35図) - 前述では△3六歩といきなり飛車のコビンを攻めましたが、その前に△8六歩(=第34図)と味付けする手があります。▲8六同歩は△8五歩(=参考図)の十字飛車が厳しいので、銀で取る一手。その交換を入れてから、△3六歩~△4五歩と銀の捕獲を目指します。以下、▲6五歩と角取りに追われたとき、△8六角と切り捨ててしまうのが、突き捨てを入れた意味。これで角と銀2枚の2枚換えで、駒得に成功した後手が優位に立てそうですが、簡単ではありません。
大駒の働きが強力(先手優勢)
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第35図以下の指し手
▲4六同歩 △4四銀打
▲2六角 △8六飛
▲8七歩 △8ニ飛
▲4五歩 △5三銀
▲4八飛 (結果図) - 第35図より▲4六同角では後手玉にプレッシャーがかからないので、強く▲同歩と取ります。対して、後手は△4四銀打として盤上の戦力を足すのが自然ですが、依然▲4五歩から馬を作る筋が残り、その対処が難しいのです。
- 結果図の局面は、大駒2枚が後手玉の急所に利いていて先手優勢。次に▲7一角や▲7七角など、角の打つところにも困らず、駒損も回復できそうな展開です。